2023年2月6日(月) US進学総研
2023年1月25日、中央教育審議会大学分科会において、2020年1月22日に出されている「教学マネジメント指針」に、大学入学者選抜の実施についての追加記載が行われました。文部科学省が、入試についての指針を示すのは、今回が初めてということで話題になっています。
「授業科目の履修に必要なものは、学力検査で課す」が基本
この教学マネジメント指針追加案の中の「学力検査で課す教科・科目等」について、以下のような記述(要約)があり、強制力はないようですが、2024年度以降の入試で、変更を検討する大学・学部も出てくるのではないかと予測されます。
●学力検査で課す教科・科目については、特に初年次に開設される授業科目の履修に必要なものを課しておくことが第一に考えられる。
●学力検査を課さない場合であっても、高等学校の調査書を選抜資料として活用することや信頼性の高い資格・検定試験等を活用することで確認しておくことが必要。
●学力検査において本来求めてもよい教科・科目をあえて課さないこともありえるが、この場合、あらかじめ履修すべき科目や学習内容を指定することや、リメディアル教育の充実に取り組むことなど、適切な措置を講じることが必要。
●全ての入学志願者に対して問うことが現実的ではない場合、当該資質・能力等のうち、中核的と考えるものについては全ての入学志願者について評価・判定することを原則とし、中核的な資質・能力等以外について、選抜区分ごとに評価・判定することで、学位プログラムに属する学生全体としては、「入学者受入れの方針」に定める資質・能力等を備えている学生が含まれているという状況が確保できるようにすることが必要。
上記の内容を見ると、既に実施している大学も多くあるようにも見える。しかし、文理横断・文理融合教育を推進していく中で、「データサイエンス系」「情報系」「経済系」などの学部については、国公私立すべての大学において、特に「数学」の入試科目について見直しをする動きが出てくるのではないかと考えられます。
特に私立大学の一般入試において、出願科目が限れられおり、文理の分断とも言える状況が生じている
「学修者本位の今後の大学教育の実現に向けた今後の振興方策について(審議まとめ案)」資料の中でも、以下のような記述(要約)があります。大学入試を変えることで改善を図りたいという狙いがあるようです。
●小中学生の理数の学力は世界トップレベルであるにもかかわらず、算数・数学、理科が「得意だ」、算数・数学、理科を「使うことが含まれる職業につきたい」と答える児童生徒の割合が国際平均を下回っているという課題がある
●高等学校教育段階においては、大学入学者選抜を見据え、約3分の2の高等学校が文系・理系のコース分けを実施しているが、文理選択は高校1年次の秋頃、文系・理系のコースの開始時期は2年次の4月からであることが大半であり、あまりに早い時期に文理選択を迫られ、特定の教科について十分に学習しない傾向がある
●世界的に見ても特異的であるとされる文理分断の状況は、大学入学者選抜の在り方が変わらなければ解消されないとの意見もある。特に私立大学の一般入試において、出題科目が限られており、大学への入口段階で入学者に求める能力・適性等を評価・判定していないといった文理の分断とも言える状況が生じている。
●選抜区分ごとの実態調査によれば、商学・経済学部の個別学力検査において数学を必須とする選抜区分は 7.2%、選択科目を含めて全く課さない選抜区分は 22.4%であった。(下グラフ参照)
「数学」を必須にすると志願者が減少する、だから選択にしていた。しかし、今後は必須化する大学も出てくるのではないか。
早稲田大学政治経済学部は、2021年度一般選抜で「数学」を必須にしました。「数学Ⅰ・A」までの範囲を共通テストを受験するというものでしたが、「数学」を捨てて3教科に集中することで合格を勝ち取ろうとしていた受験生にとっては衝撃が走りました。入試変更は、数学必須化に加えて総合問題への変更もありましたが、結果として一般志願者前年比は62.6%と大きく減少しました。
国公立大学は原則「5教科7科目」となっており、共通テストにおける「数学」を必須にしている大学がほとんどですが、一部の公立大学では、経済学部などでも「数学」を必須ではなく選択にしている大学もあります。私立文系型で、教科を絞って勉強してきた生徒も、公立大学を併願可能となれば、志願者を増やすことができます。地方公立大学からすれば、募集エリアが広がり、志願者が獲得しやすくなります。
このように、「数学」を必須にして志願者数が減少したり、「数学」を選択にして志願者を集めやすくなったりする実態もあり、大学入学後に必要だと分かっていても、必須にはできていなかった学部も多くありました。特に私立大学の場合は、検定料収入の面でも大きな影響がありますので、なおさら推進されません。
ただ、今回、文部科学省から指針が出たことで、定員割れの心配が全くない、偏差値上位大学「データサイエンス系」「情報系」「経済系」などの学部から、「数学」の必須化に動く大学が多く出てくるのではないかと予測されます。