US進学総合研究所

佐賀県で公立・私立の2大学が開学予定。ここから、地元残留率や文部科学省の理工系強化支援事業について考えてみる


2023年6月15日(木) US進学総研

佐賀県に公立大学と私立大学の2大学開学予定。大学進学時の地元残留を促進

 2023年6月7日、佐賀女子短期大学を設置する学校法人旭学園は、佐賀県武雄市に2025年4月の開学を目指す4年制の新大学の名称を「武雄アジア大学」にすると発表しました。「現代韓国学部(入学定員90名)」「次世代教育学部(入学定員40名)」(仮称・構想)の2学部を設置予定の私立大学です。さらに、佐賀県は、2028年度をめどに「(佐賀)県立大学」を開学(入学定員200~300名)するとも発表しています。佐賀県の大学進学者数は、2022年度で約3500名。2025年度開学を目指す私立大学と、2028年度開学を目指す公立大学の入学定員を合わせて約350名。大学進学者の約1割にあたる入学定員が増えることになります。学生募集がうまくいけば、大学進学時の地元残留率はあがると予測されます。

大学進学時における、佐賀県の地元残留の現状

 佐賀県の地元残留率(佐賀県内の大学への進学者/佐賀県内高校からの大学進学者)は、2022年度で16.7%。全国で見ても、鳥取・奈良に次いで低い数値。これを、国立・公立・私立大学で分けて集計をしてみると、それぞれ国立35.3%・公立0%・私立9.9%となり、地元残留は、国立(佐賀大学)頼みになっていることが分かります。国立大学は新設や定員増の見込みが薄いことを考えると、このデータから見て、公立と私立の地元残留率をあげるしか方法がないこともはっきりします。ただし、福岡県の方が近いという佐賀県内の都市もあるため、大学を新設すれば必ず地元残留という単純なものではないことは予想がつきます。全国平均としては、公立大学での地元残留率は46.8%(2022年度)、私立大学での地元残留率は46.6%(2022年度)。佐賀県の新設予定公立大学250名、新設私立大学130名として全国平均値で残留するとして計算(定員充足100%想定)すると、新設大学入学者178名が佐賀県に残ることになります。2022年度実績では、578名が進学時に佐賀県に残っているので合計すると756名となり、地元残留率は5%程度あがることになります。

佐賀県の地元残留率があがったときに近隣県に何が起きるのか

 設置する学部系統を、近隣県の大学と被らないように、定員も考えていけば、佐賀県で新設する公立大学も私立大学も学生が集まる可能性はあると思います。しかし、18歳人口が増えているわけではないので、近隣県に少なからず影響が出てきます。その影響は、福岡県・長崎県・熊本県などの同学部系統の偏差値中下位の私立大学に及ぶことは、容易に予測できるかと思います。佐賀県と同様に、他の県でも同じように地元残留を考えた場合には、佐賀県に流入してくる人も少なくなることも考えておく必要はあります。

公立大学がないのは、佐賀県以外に栃木県・徳島県・鹿児島県の計4県ある

 公立大学は、全国に101大学(2022年4月時点)。大学院大学が3大学あるため、学部生を募集しているのは98大学。平均すると、各都道府県に2大学はある計算になるが、公立大学がない都道府県は佐賀県を含めて4県ある。20年前にさかのぼって調べてみても、新規開学している公立大学はほとんど保健医療分野の学部となっており、社会科学系・理工系や国際系などは少ない。

 また、公立短大があるのは、12道県(北海道・岩手県・山形県・福島県・山梨県・岐阜県・静岡県・三重県・島根県・岡山県・大分県・鹿児島県)。この中に佐賀県はありません。公立短大があれば改組で公立大学ができる可能性もあるが、佐賀県には公立短大がないため、公立大学を完全に新設するしかなかったのだと思います。

公立大学が新設されないと、地元残留率はあがらない。私立大学の公立化と、公立大学の新設との違いについて

 2012年度から2022年度までの10年間で、地元残留率がどのくらい変化したかを集計すると以下のようになります。10年間で、地元残留率が5%以上あがっているのは、青森県・秋田県・新潟県・石川県・和歌山県・高知県の6県。公立大学の新設が要因になっているのは、新潟県。三条市立大学(20221年度/新設)の影響は大きかったようです。

 この10年間の公立大学新設は、長野県で多くありました。長野大学(2017年度より私立大学の公立化)、長野県立大学(2018年度/長野県短期大学の4大化)・公立諏訪東京理科大学(2018年度/私立大学の公立化)の3大学。これだけ公立大学新設があると、地元残留が大きく促進されるようにも思えるのですが、もともと長野県にあった私立大学を公立化した2大学が含まれているため、大きく数値が変化していません。やはり完全に公立大学を新設または学部増などで定員が増える場合と、私立大学の公立化は少し事情が異なるようです。

2023年7月には理工系強化支援事業の採択校が発表される。地元残留率が低い自治体の公立大学の申請が多い?

 文部科学省は、3002億円の基金を活用して、大学による「デジタル」「グリーン」等の特定成長分野の学部設置等を継続的に支援する事業を公表しています。

 支援事業は2つあります。「支援1」は、公立大学と私立大学を対象とし、学部再編等によるデジタル・グリーン分野への転換(理学・工学・農学の各学位分野、およびこれらのいずれかを含む融合分野が対象)に、最長10年間、定率で20億円程度までの支援。「支援2」は、情報科学系学部・研究科を既設する国公私立大学を対象とし、大学院の研究科・専攻・コース等の設置・定員増や課程の見直しを中心に、最長10年間、定額で10億円程度までの支援。高専も対象にとする。2つのうち「支援1」については、学部が中心になるため、高校生の大学進学にも大きく関係してくる内容になります。初年度の申請は、すでに5月中旬に締め切られ、7月以降に採択校が発表される予定です。

 どの大学が申請しているのかは現時点では分かりませんが、上記のように地元残留率が低い自治体にある公立大学は、「支援1」に多く申請しているのではないかと予測されます。公立大学であれば、新設費用さえ出してもらえれば、入学定員は集められると考える可能性が高く、私立大学よりも申請がしやすいはずです。ただし、先にも書いていますが、自県の残留率は促進される可能性は高いのですが、近隣県の偏差値中下位私立大学へ影響は出てきます。どこかが良くなれば、どこかが悪くなる。難しいところです。

 佐賀県の大学進学率は2022年度で42.1%と、全国平均56.6%よりもかなり低い数値となっています。これを全国平均近くまで上げることができれば、近隣県への影響も少なくなるのではないかと考えられます。高校生で情報系・理工系や農学系の学部を選択する人が増えるのかどうかも含めて、先行きは不透明なことが複数あります。まずは、7月以降の採択校の発表を見てみたいと思います。

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