US進学総合研究所

修学支援新制度 新しく加わる対象者(年収約600万未満の私立理工農系学部の学生)について考えてみる


2023年6月29日(木) US進学総研

2020年度からはじまった「修学支援新制度」で、住民税非課税世帯の進学率が上昇

 消費税率10%への引き上げにより財源を確保し、2020年4月より始まった「高等教育の修学支援新制度」。年収約380万円未満の世帯を対象に授業料の減免や、給付型奨学金を出す制度で、2021年度実績で約31.9万人を対象に約1437億円(JASSO発表)の奨学金が支給されている。新制度導入の結果、住民税非課税世帯の進学率は、2018年度40.4%から「修学支援新制度」がはじまった2020年度に51.2%へ、2021年にはさらに54.3%に上昇(いずれも推計値)。成果が出ている様子が分かる。

2024年度から中間層へ拡大(年収約600万の世帯まで対象を広げる)

 2024年度より「修学支援新制度」は、年収約600万円の世帯まで対象を広げ、新たな対象者が加わることになった。その対象者は、年収約600万円までの世帯のうち、扶養する子どもが3人以上いる多子世帯と、私立の理工農系学部の学生の世帯。扶養する子供が3人以上いる多子世帯については、全額支援となる第Ⅰ区分の4分の1(例えば私立大学に自宅外から通う場合、授業料減免と給付型奨学金を合わせて約40万円)の支援、私立理工農系学部の学生については文系授業料との差額を支援すると文部科学省は発表している。支援対象者は約20万人増えるということだが、多子世帯はどの世帯が対象になるかが明白なのに対して、私立理工農系学部の学生の世帯は、対象学科がまだはっきりしていないため、かなり不明瞭だ。また、支援金額についても、文系授業料との差額30万円前後ということだが、金額がはっきりしていない。

大学進学者(昼間部)で年収400~600万は、約17%。私立大学理工農系学部で計算すると学年1万4000人程度か。

 日本学生支援機構(JASSO)の調査によると、大学進学者(昼間部)の家庭年収400万~600万は、平均で約16.5%。国立15.2%、公立20.3%、私立16.6%と校種で違いが出ている。今回は私立が対象になるため、およそ17%だと言える。私立理工農系学部入学者数は、2022年度で約8万2000人なので、2024年度入学者もほぼ変わらないと仮定すると、約1万4000人程度は対象になってくると予測されます。奨学金があるなら理工農系学部に進学しようと考える生徒もいることを想定すると、もう少し多くなるのかもしれません。
※専修学校(専門課程)工業・農業も対象になりますが、ここでは大学だけで計算しています。

私立理工農系学部の対象学科は2023年8月末発表予定。学生募集に影響があるのでは?

 学士として理工農がとれるもの、文理融合のデータサイエンス学部などは対象に含まれると明記されているが、理工農に関連する学部学科も多くあるため、学生募集においても、有利不利が出てきそうだ。対象学科について書かれているのは以下の項目。発表は2023年8月末を目途に行われるとのこと。現在対象学科について発表されている内容とQ&Aは以下。

【理工農系支援】対象学科
• 学部又は学科を単位とする
• 学位の分野が「理学」「工学」「農学」の学部・学科を対象(学校基本調査の分類を活用)
 ※専門学校の場合、理系分野の学科(現行設置基準で「工学」「農学」)の所属者を対象
• 学校基本調査の分類では判断できない、学際分野については、設置認可の際の審査情報も活用し、学位の分野に「理学」「工学」「農学」が含まれていれば対象とする
 ※ 例えば経済学と工学の学問分野をバックグラウンドに設置されるデータサイエンス関係の学部も対象になる

【理工農系支援】Q&A
〇 理工農系支援の支援対象は、どうなるのですか
 ⇒私立の大学・短大・高等専門学校・専門学校に通う学生の方が対象となります。
〇 理工農系支援の場合、いくら支援されるのですか
 ⇒人文社会科学系等の授業料平均との差額を支援する予定です
〇 理工農系支援の対象校(対象学部・学科)は、いつ分かりますか
 ⇒大学等の要件を確認したうえで、令和5年8月末を目途に、文部科学省から公表する予定です
〇 理工農系支援とは、どの学部・学科が対象ですか。学部・学科の名称だけでは判断つきません
 ⇒授与する学位の分野に理学・工学・農学が含まれていれば対象になります。また、学問分野をまたがる 学部・学科も、理学・工学・農学が含まれれば対象となります。なお、専門学校の場合は、学科の属する 分野が工業関係・農業関係の学科が対象となります。対象となる具体的な学部・学科は、令和5年8月末を目途に、文部科学省から公表する予定です
〇 多子世帯支援と理工農系支援の両方に該当する場合、どちらが優先されますか。
 ⇒原則、多子世帯支援が優先されます。

日本私立学校振興・共済事業団の初年度納付金に関するデータで見ると、理系と文系の授業料の差は、約32万円となっています。理工農系学部の中でも文系並みの学費になっている学科もありますので、すべてが対象になるのかどうかも気になるところです。

疑問点① データサイエンス系はどこまで対象となるのか?

データサイエンス学部は対象になるとのことだが、社会科学系学部などに設置されているデータサイエンス学科や専攻コースはどうなるのであろうか。社会科学系学部でも理系向け入試を行っている場合もあるため、これも対象に含めないと不公平が生じる可能性もある。

疑問点② 文理融合型の情報系学部学科はすべて対象となるのか?

情報科学部や情報工学部は明らかに理系の内容が多いが、情報学部という名称は文理融合も多く判断が付きづらい。「経営情報」「経済情報」「国際情報」「文化情報」などの学部もあり、すべてを対象にしないとこれも不公平が生じる可能性もある。

疑問点③ 農学・生物系の「経済経営」「ビジネス」分野の学科は対象となるのか?

農学には関係しているものの、学ぶ内容としては文系的要素が強い学科は対象になるのであろうか。学部単位で見ればあきらかに対象であるが、学ぶ内容を見ると、社会科学系とも言うことができ、学費も少し安い。

疑問点④ 生命・バイオ・食料系はすべて対象となるのか?

農学部と分野が似ていて、理系要素も強いと考えられる生命系・バイオ系・食料系は、理工農の中に全学科が入るのであろうか。

疑問点⑤ 管理栄養士養成学科など栄養系はすべて対象となるのか?

農学部の中に管理栄養士養成学科もあれば、家政学部・生活科学部の中にもあり、一部は薬学系学部にも設置されている。これをすべて対象とするのかどうか。また、家政や生活科学に括られているが、管理栄養士の受験資格は得られなくとも、農学(特に食品)に関係する学問を行っている学部学科も多くある。

疑問点⑥ 臨床検査技師・臨床工学技士養成学科は、医療系学部以外であれば対象となるのか?

理工農系を対象としていて、今回は医療系学部は含まれていません。しかし、臨床検査技師と臨床工学技士は、理工農系学部にも養成学科が存在していることもあり、理工農に含まれるすべての学科を対象としてしまうと、不公平が生じてしまう。医療系も対象に含めれば問題ないが、そうなると、なぜ、臨床検査と臨床工学だけなのか?という話になる。

新たに支援する区分の対象になる方は、在学採用

 総合型選抜の出願は9月1日からスタートする。夏休みの段階ですでに出願する学部学科を決めている生徒も多くいますので、修学支援新制度の理工農系学部の対象学科はできるだけ早めに発表してもらいたいと思います。同じ資格がとれるのに、理工農系だと対象になって、それ以外の系統だと対象から外れるというのはなくさないといけません。また、データサイエンスなど資格に関係しないものについては、文科省への申請書類だけだとかなり狭くなってしまうため、既存の経済・経営学部などは対象にならないと考えられます。どこで切るかが難しいところではありますが、できるだけ対象学科を広くとってもらいたいと思います。


 2024度から新たに支援する区分の対象となる方については、在学採用(2024年4月に新たに入学する方も、前年より在籍中の方も、4月以降に在籍する大学等を通じて申し込み)になる予定とのこと。対象学科かどうかで、受験するかどうかを決める生徒も増えることになるため、対象人数は限られているとはいえ、8月末の発表は重要だと考えています。

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