US進学総合研究所

通信制高校生徒数の大幅増加から、大学の通信教育課程について考えてみる


2023年8月29日(火) US進学総研

 2023年8月23日、文部科学省は学校基本調査【令和5年度(2023年度)速報値】を公表しました。
 幼保連携型認定こども園、義務教育学校、中等教育学校、特別支援学校、大学全体と学部の在学者数、学部の女子学生数、学部学生に占める女子学生の割合、大学全体の女性の教員数、大学教員全体に占める女性の割合の10項目が過去最多。小学校、中学校在学者数の2項目が過去最少。
 結果のポイントとして、過去最多と過去最少を中心にしてコメントが出ていましたが、US進学総研として注目したのは、「高等学校(通信制)の生徒数」。高等学校という括りの中の一部なので、分かりづらいのですが、過去最高の伸び率になっています。

高等学校(通信制)生徒数は、26万4,797人で過去最多。前年から11.1%増で伸び率も過去最高。

 ここ数年大きく伸びていましたので、注目はされていましたが、2023年5月1日時点での高等学校(通信制)の生徒数は、26万4,797人で前年比11.1%増と過去最高となっています。男女別に見ると、特に女子の伸びが顕著です。過去から男子の方が多かったのですが、2022年度より逆転しています。
 設置者別(公立・私立)で生徒数推移を見てみると、私立が大きく伸び、公立が減少し続けていることが分かります。2003年小泉内閣が規制緩和策として導入した教育特区により、2004年以降に株式会社の通信教育高校が多く開校したことで私立は伸び続けています。ずっと減少の一途をだどってきた公立は、2022年度より増加に転じています。これも大きな特徴です。

高等学校(全日制)生徒数は、283万9,299人で9年連続減少。通信制の生徒数が伸びているのは、全日制の退学者が増えているからではない

 2022年と2023年3月に中学校を卒業生した生徒(2025年度と2026年度入試の大学受験対象者)は、人口減少トレンドにある中で、比較的生徒数が多い学年になっています。このような背景もあり、全日制の生徒数は、今までの高校進学の流れから考えれば、ほとんど減少しないはずですが、実際には減少しています。
 通信制高校への入学者は、全日制の退学者も多く在籍していますが、全日制の退学者予測数推移を調べてみると、大きく増加しているわけではないことが分かります。小中学校からの不登校問題とも関係があると考えられますが、中学校卒業後すぐに通信制高校へ入学している生徒も多く存在していることが分かります。男女別に見ると、退学者は男子の方が多かったのですが、2022年以降は女子の方が多くなっており、変化が見られます。

通信制高校の新規開校に加え、全日制高校の通信制課程 新設が増えている

 コロナによる通信制への認知が広がったこともあり、全国で通信制高校の新規開校やキャンパス新設が相次いでいます。また、全日制を設置している高等学校も、通信課程を併設する例も多く、中学生も高校進学時に、全日制で毎日通いにするか、通信制で通う日数を選択するかを選ぶような環境になってきています。通信制高校の中で、最も生徒数が多いのは、学校法人角川ドワンゴ学園が設置するN高等学校とS高等学校。在籍者数は、2万5,041人(HP掲載、2023年6月30日時点)と、全国の通信制生徒数の約1/10を占めるところまで成長しています。

2025年4月ZEN大学開学構想。入学定員は1学年5,000人。通信制高校からの大学進学はどうなる?大学進学率は上がるのか?

 通信制高校の生徒数が過去最多となっている環境の中で、2025年4月ZEN大学(仮称)が開学する構想があります。株式会社ドワンゴと公益財団法人日本財団が提携、一般社団法人日本財団ドワンゴ学園準備会を設置して開学を進めているオンライン大学で、定員は1学年5000人。発表によると、知能情報社会学部の1学部で、「人文・社会」「情報」「数理科学」「デジタル産業」「クリエイティブ」の関連科目が用意され、文理ともにある程度の学び分野は網羅されています。通信制高校で、通信に慣れた生徒は、大学についても通信制を選択する可能性もあります。また、コロナ禍を経てオンライン授業にも慣れた全日制高校からも通信制大学を選択することも十分に考えられます。通信制高校2022年3月卒業者は7万993人で、うち大学進学者は1万2,722人。大学進学率は17.9%です。全体の大学進学率は56.6%なので、通信制高校の大学進学率とは大きな差があります。ZEN大学の入学定員の大きさを考えると、2025年度は、通学課程の大学にも大きな影響があるではないかと予測されます。

大学は、高校生が入学する「通信教育課程」のことを本格的に考えていく必要がありそう

 大学で通信教育課程を設置しているのは、43大学。うち通信課程のみ設置は、6大学(放送大学、星槎大学、東京通信大学、サイバー大学、八洲学園大学、ビジネス・ブレークスルー大学)で、その他37大学は、通学と通信課程を両方設置しています。両方設置している大学は、通学課程で設置している学部すべてを通信教育課程で設置しているわけではなく、学べる学部学科は限られています。また、大学の通信教育課程は、社会人をメインの対象としている場合が多くあります。今後は、大学進学においても、高校生が通学か通信かを選択する時代に入ってくると思います。通学課程の中にオンライン講義を取込んでいくことはもちろん、構想されているZEN大学の開学をきっかけとして、高校生が入学する通信教育課程を考えていくことが必要になってくると予測されます。

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