US進学総合研究所

大学入学者選抜実施要項において定める試験期日等の遵守について


2025年1月17日(金)US進学総研

 

 2024年12月24日、文部科学省は「大学入学者選抜実施要項」に反し、学力を問う入試を年内に実施する大学が散見されているとして、試験の実施期日の遵守を求める通知を全国の国公私立大に出した。これが各大学での今後の入試をどうしていくのか議論になっている。
 2025年度入試、東洋大学の学校推薦型選抜「基礎学力テスト型」が新規で行われ、募集定員578名(昼間部503名、イブニング75名)に対して約2万人の志願者を集めました。この試験の実施がきっかけとなり、高等学校関係団体を中心に、大学入試は「高校における適切な教育の実施を阻害しないよう配慮が求められる」として強い懸念が示されました。
 かなり大きな問題になっていますが、現状を整理してみました。

【入学者選抜実施要項】大学入学者選抜実施要項において定める試験期日等の遵守について(依頼)

個別学力検査(各教科・科目に係るテスト)は、2月1日から3月 25 日までの間に行うもの。高等学校関係団体からの意見は?

 

 文部科学省からの通知の内容は以下のようになっている。2月1日以前に個別学力検査が行われると、生徒の安易な進路選択につながる、高等学校における適切な教育の実施を阻害する、などの意見が出ているようです。これらの内容は、高等学校の本来の教育が崩れしまうようならば、今後調査をしていく必要はあるのかもしれません。

 一般選抜・総合型選抜や学校推薦型選抜、個別学力検査(各教科・科目に係るテスト)の試験期日は、令和7年2月1日から3月 25 日までの間に行うものと実施要項で定めているが、この期日以前に個別学力検査(各教科・科目に係るテスト)を行っている選抜が散見される

別途意見照会を行ったところ、12 月までに高等学校関係団体から以下の見解が出た

・ (期日以前に選抜が行われることにより)生徒の安易な進路選択につながるなど、進路指導という観点を含め、高等学校教育に大きな影響を及ぼす
・ 一部の大学において実施要項の趣旨を踏まえず、高等学校教育における学びの継続性や教育課程に影響を与えかねない、早期選抜が実施されていることに憂慮し、正常な高等学校における教育と大学における教育の接続が実施されるよう願う
・ 総合型選抜や学校推薦型選抜では入試方法の多様化、評価尺度の多元化に対する大学の努力の一環であり、選考に当たり丁寧な資料の見取りとそれに係る時間を相応に要することから、一般選抜に比して早期に実施されているものと理解
・ 現行の実施要項に基づけば、各大学はアドミッション・ポリシーに基づいて大学入学者選抜を実施するものであり、少子化によって減少する学生を他大学に先駆けて確保することが目的ではないはず

個別学力検査(各教科・科目に係るテスト)の試験期日が2月1日以降となっている件が、守られていないことは、かなり前から各所で指摘が出ていたのは事実です。ただ、このルールは全大学で守られた年度は、一度もなかったのではないかという記憶があります。

大学入学者選抜協議会(第16回)配付資料【資料2】大学入学者選抜における個別学力検査の試験期日等について

2月1日以前に行われている個別学力検査(各教科・科目に係るテスト)

 大学入学者選抜実施要項において、学力試験は2月1日~3月25日と規定されているという話になっていますが、関関同立を除く関西の大学の一部は、公募推薦における個別学力検査(各教科・科目に係るテスト)が1990年代から行われているようです。公募推薦の赤本も、1990年代から販売されていました。もう30年近く続いており、関西の高校では広く知られている入試です。一般選抜の前哨戦という位置づけで受験している層も多く存在し、第一希望で受験する生徒だけでなく、滑り止めとして合格を確保しておきたい生徒、受験の緊張感などを体験する目的の生徒など、受験理由はさまざまです。※一部の大学では、公募推薦という名称でも、学校長の推薦書がいらない総合型選抜の1つとして実施しています。

 関西地区は多くの大学で採用されている公募推薦の学力試験ですが、首都圏では公募推薦ではなく奨学生入試として12月や1月に実施されている例は複数あります。1930年代から伝統的に行われている神奈川大学の給費生入試や、一部の女子大で行われている奨学生入試、静岡県の常葉大学で行われている奨学生入試、2025年度入試から新たに実施される帝京大学の奨学特待生選抜などは12月実施となっています。1月実施では、東京工科大学、大正大学など、複数の大学で実績があります。

 学部別に詳しく見ていくと、医学部・歯学部・薬学部・看護学部は、過去から全国的に公募推薦で学力試験が行われている大学があります。面接も行われており、学力試験ではなく、「適性検査」としている大学も多くあります。「適性検査」は、英語・国語・数学などをもとにした試験となっているようです。教科・科目から出題されているものでも、「適性検査」「総合問題」のようなものならOKなのかは判断が難しいところです。

 一般選抜でも1月の試験日を採用している大学は多くあります。2月1日以降に実施していた私立大学も、大規模大学が全学統一入試などで、2月前半に試験日を増やしていった動きにあわせて、試験日が被らないように1月末の試験日を設定していきました。また、併願する大学が同じ学部になることが多い医学部の場合は、1月末から試験日が設定されており、入学者確保という理由ではなく、受験生のチャンスを増やすという意味で行っている大学が多くあることも事実です。

「学校推薦型選抜(公募)」と「学校推薦型選抜(指定校)」の募集定員バランスが地域によって大きく異なる

 首都圏の大学においては、総合型選抜の募集定員数はある程度あるのですが、公募推薦の定員は少なく、指定校推薦の定員が多くなっています。関西の大学においては、公募推薦の募集定員が多く、指定校推薦の定員が少なめになっている大学が多い傾向にあります。また、総合型選抜の定員も首都圏と比較すると少ない大学が多いです。このように、地域や大学により、入試区分による募集定員の考え方が大きく異なっています。

首都圏の大学が「学校推薦型選抜(公募)基礎学力テスト型」を新規実施する場合、どの入試区分の募集定員を減らすのかが問題になる

 入学定員は大きく変動しませんので、「学校推薦型選抜(公募)基礎学力テスト型」を新規実施する場合、どこかの入試区分の募集定員を減らす必要があります。その減らす入試区分が、一般選抜の募集定員であった場合は、一般選抜の前倒しと捉えられてしまうかもしれません。では、減らす入試区分が、「総合型選抜」や「学校推薦型選抜(指定校)」であった場合は、高校側としては、どのように考えるのでしょうか?特に、「学校推薦型選抜(指定校)」が減少するのは、歓迎しない高校が多いのではないかと予測されます。

入試区分と入学後の成績との関係は、大学IR(Institutional Research)によって各大学で調査分析されている

 教育プログラム改善、教育成果の可視化、学生生活の満足度向上などの目的から、学内にある様々なデータが集められ、大学IRとして分析されています。この分析で分かるものの中に、入試区分と入学後の成績との関係があります。たとえば、一般選抜で入学した学生は成績がよいなど、入学した入試区分別にも分析されており、この結果により、募集定員の割合を変更することも行われています。多様な学生を入学させたいという意思があっても、入学後の成績があまりにも悪い場合は、その入試区分の募集定員を減らすということも考えなくてはいけなくなります。

2026年度入試で、日東駒専クラスの大学がすべて「学校推薦型選抜(公募)基礎学力テスト型」を実施すると、確かに混乱が起きる可能性がある

 首都圏と関西との違いは、やはり圧倒的な人口の違い。募集する範囲なども考慮すれば、関西の3倍以上の受験生が年内に動くことになると考えられます。関西も、1990年代から実施しているとはいえ、全大学が同じ年度にはじめたわけではなく、少しずつ加わって今の体制になっていると考えられるため、もしも首都圏の大規模大学のすべてが、2026年度入試で、「学校推薦型選抜(公募)基礎学力テスト型」を新設してしまうと、受験生の数がかなり多くなるため、初年度は特に混乱が起きる可能性があります。

全大学がルールを守ると、さらに混乱が起きる可能性がある

 毎年少しずつ入試変更が行われ、学力検査をともなう総合型選抜や学校推薦型選抜が増え、2月1日より前の一般選抜が増えていったため、急に変更すると、これもまた混乱が起きると考えられます。決めたルールは守るべきだと思いますが、現状にあったルール変更をしていくことも考えないと、受験生も大変になるだけだと思います。今回の指摘は、「2月1日以前に行われている個別学力検査」ということで、一般選抜の入試日程も、この中に入ってきますので、余計にややこしい話になっています。

高等学校における適切な教育の実施を阻害する要因となる「具体的なもの」は何なのか?全国の高校から意見を集約していく必要がある

 東洋大学の学校推薦型選抜・基礎学力テスト型の実施をきっかけにして、高校関係団体から様々な懸念が出ているが、具体的に教育の実施を阻害する要因となるものは何なのかを、明らかにしていく必要があると思います。首都圏の高校からすると、ここまで志願者が多い年内学力テストは、神奈川大学の奨学生入試のほかにはなかったわけですが、関西では、30年近く前から実績がありました。大学入学者選抜協議会として、今春にも、試験の期日や内容の在り方について検討するとのことですが、すでに実績がある関西で、この影響をどのように捉えているのかも参考にしながら、どのような対策が考えられるかを検討してもらいたいと思います。とても難しい問題ですが、大学・高校・受験生すべてが前向きになる結論を願うばかりです。

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